最高裁判所第一小法廷 平成8年(あ)838号 判決 1997年9月18日
主文
原判決を破棄する。
本件控訴を棄却する。
理由
弁護人山下幸夫外一七名の上告趣意は、憲法一三条、一四条、三一条、三二条、三七条、三九条、八一条、九八条二項違反をいうほかは、単なる法令違反の主張である。
所論にかんがみ職権をもって調査すると、本件公訴提起の手続に違反はないとした原判決は、刑訴法四一一条一号によって破棄を免れない。その理由は以下のとおりである。
一 記録によれば、本件の経過は次のとおりであることが明らかである。
1 本件公訴提起に至る経緯
(一) 被告人は、傷害、暴力行為等処罰に関する法律違反保護事件について、平成五年六月二二日、東京家庭裁判所八王子支部において、一般短期処遇勧告の付いた中等少年院送致決定(以下「少年院送致決定」という。)を受け(当時一八歳)、これに対し、事実誤認を理由に抗告を申し立てたところ、抗告審である東京高等裁判所は、同年九月一七日、被告人及びその共犯とされる少年四名が本件非行を行ったと認定するには合理的な疑問が残り、少年院送致決定には重大な事実誤認があるとして、これを取り消した上、事件を東京家庭裁判所八王子支部に差し戻す旨の決定をした。
(二) 差戻しを受けた東京家庭裁判所八王子支部は、同年一一月二五日、差戻し後に実施した証人尋問の結果及び捜査機関から送付された新たな証拠資料を付加すると、被告人らが本件非行を行ったものと認定することができ、刑事処分を受けさせることが被告人の人格、社会性の健全な発達を図る上で必要であるとして、少年法二〇条により事件を検察官に送致する旨の決定をし(以下「本件検察官送致決定」という。)、検察官は、これを受けて、平成六年二月二八日、前記保護事件と同一の事件について、被告人に対する公訴を提起した(以下「本件公訴提起」という。被告人は当時一九歳)。
2 第一審判決及び原判決の概要
(一) 第一審は、平成七年六月二〇日、少年保護事件における保護処分決定に対する抗告にも刑訴法四〇二条と同様の不利益変更禁止の原則の適用があるとした上、本件検察官送致決定は、少年院送致決定を被告人に不利益に変更したもので、右原則に抵触する違法、無効な措置であり、これを受けて少年法四五条五号による起訴強制の効力に従った本件公訴提起も違法、無効なものであるとして、刑訴法三三八条四号により本件公訴を棄却する旨の判決を宣告した(第一審判決)。
(二) 原審は、検察官からの控訴申立てを受け、平成八年七月五日、少年審判手続にも刑訴法四〇二条と同様の不利益変更禁止の原則の適用があるとした第一審判決の判断は是認できるとしたが、本件検察官送致決定は手続上の中間的処分にとどまり、その段階における不利益性を見いだすことはできないから、本件検察官送致決定には右原則に反する違法はなく、また、これを受けた本件公訴提起も有効であるとして、第一審判決を破棄し、本件を第一審に差し戻す旨の判決を宣告した(原判決)。
二 以上の経過に基づき、本件公訴提起の手続に違法はないとした原判決の当否について判断を加える。
1 家庭裁判所のした保護処分決定に対する少年側からの抗告に基づき、右決定が取り消された場合には、当該事件を少年法二〇条により検察官に送致することは許されないものと解するのが相当である。その理由は以下のとおりである。
(一) 少年法は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うことを目的としている(一条)。そして、同法によれば、犯罪の嫌疑のある少年の事件については、その全件を家庭裁判所に送致すべきものとされ(四一条、四二条)、家庭裁判所は、送致を受けた事件について調査の結果、審判に付することができないか、又は審判に付するのが相当でないと認めるときは、審判を開始しない旨の決定をしなければならず(一九条一項)、審判の開始を相当と認めるときに限って、その旨の決定をすることとされている(二一条)。さらに、審判の結果、保護処分に付することができないか、又は保護処分に付する必要がないと認めるときは、不処分決定をしなければならず(二三条二項)、保護処分に付する必要があると認めるときは、決定をもって少年を保護観察、少年院送致等の保護処分に付するものとしている(二四条)。そして、事件が検察官に送致されるのは、本人が二〇歳以上であるため家庭裁判所が審判権を有しない場合(一九条二項、二三条三項)のほかは、送致のとき一六歳以上の少年が死刑、懲役または禁錮に当たる罪を犯したとされる事件につき、家庭裁判所がその罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認める場合に限られている(二〇条)。このような少年法の趣旨、目的及び構造に照らすと、同法は、少年が一般に未成熟で、可塑性に富むことにかんがみ、少年の健全な育成のためには、現在及び将来に様々な不利益をもたらす刑罰によって成人に対するのと同様にその責任を追及するよりも、教育的手段によって改善、更生を図るべきであるとの理念に基づくものであって、少年に対しては、保護処分その他同法の枠内における処遇を原則とし、刑罰によってその責任を追及するのは、その罪質及び諸般の情状に照らし、このような教育的手段によることが不適当な場合に限定しようとするものであり、刑事処分は、少年にとって、保護処分その他同法の枠内における処遇よりも一般的、類型的に不利益なものとしていると解するのが相当である。
(二) また、少年法は、家庭裁判所のした保護処分決定に対しては、少年、その法定代理人または附添人にのみ抗告権を認め、検察官にはこれを認めていない(三二条)。その法制の当否はともかく、法が少年側にのみ抗告権を認めたのは、専ら少年の権利保護を目的とするものであると解される。したがって、少年側が抗告し、抗告審において、原保護処分決定が取り消された場合には、差戻しを受けた家庭裁判所において、少年に対し保護処分よりも不利益な処分をすることは許されないものと解するのが相当である。けだし、そのように解しなければ、少年側にのみ抗告権を認めた抗告制度の趣旨に反し、その抗告権の行使を不当に制限することとなるからである。
(三) 以上の点を考え合わせると、家庭裁判所が少年をいったん保護処分に付した以上、その後少年側の抗告によって当初の保護処分が取り消された場合には、家庭裁判所は、少年に対し保護処分その他少年法の枠内における処遇をすべきものであり、これらの処遇より不利益な刑事処分を相当であるとして、少年法二〇条により事件を検察官に送致することはもはや許されないというべきである。
2 これを本件についてみるに、本件は、家庭裁判所の少年院送致決定に対して、少年が抗告を申し立て、抗告審の決定により事件が家庭裁判所に差し戻されたのであるから、家庭裁判所としては、刑事処分を相当であるとして少年法二〇条により検察官送致決定をすることは許されず、本件検察官送致決定は違法、無効というべきである。したがって、右検察官送致決定を前提として少年法四五条五号に従って行われた本件公訴提起の手続は違法、無効といわざるを得ない。
3 以上のとおり、本件公訴提起の手続は少年法に違反して無効というべきであるから、刑訴法三三八条四号により本件公訴を棄却すべきであるのに、本件公訴提起に違法はないとした原判決には、法令の解釈適用を誤った違法があって、その違法が判決に影響を及ぼし、かつ、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
よって、その余の所論について判断を加えるまでもなく、刑訴法四一一条一号により原判決を破棄し、なお第一審判決は、以上の当裁判所の判断とその結論において一致しこれを維持すべきものであり、検察官の控訴は理由がないこととなるから、同法四一三条ただし書、四一四条、三九六条によりこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
この判決は、裁判官井嶋一友の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。
裁判官井嶋一友の反対意見は次のとおりである。
私は、原判決中、少年保護手続における抗告について、いわゆる不利益変更禁止原則の適用を肯定した部分は是認し難いが、少年法二〇条による検察官送致決定は、単なる手続上の中間的処分であり、少年の実体的処遇に対し何らの変更を加えるものではないとして、第一審判決を破棄し、事件を第一審に差し戻した判断は、結論において是認することができるから、本件上告は棄却すべきものと考える。その理由は以下のとおりである。
一 刑事処分の不利益処分性について
少年保護手続において、抗告審が少年院送致を命じた原決定を取り消して事件を原審に差し戻した場合に、刑事手続について刑訴法四〇二条が規定する不利益変更禁止の原則が適用されるか否かは、従来の実務では問題となった例が乏しかったため、いまだ確立した定説を見ないところである。しかし、本件第一審判決及び原判決がこの原則の適用を肯定し、多数意見は、この原則と同様の思想に基づき、刑事処分の不利益処分性を肯認して、これを前提に、本件検察官送致決定も不利益処分に当たるから違法、無効であると断じ、ひいては本件公訴提起も違法、無効であるとして原判決を破棄し、本件公訴を棄却すべきものとする。私は、この結論には到底賛同し難い。
1 少年保護手続には、刑訴法四〇二条のような不利益変更禁止原則の適用を認める規定は存在しない。少年保護手続と刑事手続は、その性格、理念を異にするから、明文の規定のない限り、刑訴法の準用はないものというべきであり、仮に準用を認める場合があり得るとしても、少年保護手続の性格や理念、構造等に反しない場合に限られるべきである。まして、立法政策上明文の規定を置かないこととした場合にまで、安易にその適用を肯定することは、厳に慎まなければならないのである。
刑訴法四〇二条は、刑事手続において、被告人に上訴権の行使を躊躇させないための政策的配慮と同時に、刑事手続の当事者主義構造に由来するものといわれる。適正、妥当な裁判を指向すべき刑事手続において、上訴審あるいは差戻し審の裁判において不利益変更を許さないとの制約を課することは、その重大な例外をなすものであるが、これは、当事者主義を前提として、公益的見地から訴追する立場の検察官が上訴しない場合には、利益な変更を求めて上訴した被告人に対し、不利益な変更をする必要はないという理由によるものであり、当事者主義の構造を採らず、いわゆる国親思想に基づく職権主義構造を採用し、検察官に抗告権を認めていない少年保護手続においては、このような例外を認める前提に欠けているというほかはない。
2 少年保護手続の性格、理念は、いうまでもなく国親思想による教育主義にあり、非行を行った少年の健全育成を目標として、教育的、矯正的見地から、非行の原因を除去して少年の改善、更生を図ることを目的としているのであるから、当該少年にとって、何が最適、最善の処遇であるかを合目的的に求めることが究極の使命であるということができる。したがって、家庭裁判所裁判官には、少年に対する処遇の選択(児童福祉法の措置、保護処分、刑事処分)をするについて、非行の性質、軽重等の非行に対する客観的評価に加えて、少年の行状、素質、矯正可能性、経歴等のほか、家庭や少年を取り巻く保護環境など当該少年の要保護性について、諸般の事情を総合的に勘案して判断することが要請され、単なる利益、不利益といった一面的な価値観を超えた処遇の最適性、最善性が求められるのである。そして、その裁量判断の誤りは、「処分の著しい不当」(少年法三二条)として抗告の対象とされる。このような性格、理念、構造等に照らすと、少年保護手続には、不利益変更禁止の原則を適用することができないものとして、これを認める規定を置かなかったものと解するのが相当である。
3 ところが、多数意見は、不利益変更禁止の原則と同様の思想に基づき、少年法の趣旨、目的及び構造から、少年保護手続においては、保護処分その他少年法の枠内の処遇を原則とし、刑事処分は、一般的、類型的に少年にとって不利益な処分であることを理由に、本件のような経緯を経た場合には、差戻し審がした検察官送致決定は違法、無効であるとして原判決を破棄すべきものとする。
しかしながら、少年法は決してそのような理解に立って規定されたものではなく、処遇の選択に当たっては、何が当該少年にとって最適、最善の処遇であるかを唯一の理念として判断すべきこととしており、保護処分が原則であって刑事処分が例外的、不利益的処分であるといった枠組みを前提とはしていない。確かに、同法においては、少年に対して処罰よりも教育を重視しようという教育主義が根本になっていることは否定し難いが、だからといって、刑事処分の選択が例外的であるとか保護処分よりも当然に不利益であるとはいえない。同法が検察官送致後の手続について五〇条以下に規定する一般成人とは異なる特則を設けているのは、少年にふさわしい刑事手続によらせるものであるし、同法が刑事処分に付することのできる少年の年齢、罪種等を制限しているのは、犯した犯罪の悪質性、少年の心身の成熟度、矯正の可能性等に基づき刑事処分への適性を慎重に判断させるものであって、いずれも同法の前記理念の実現に資するためのものであり、同法が一般的、類型的に刑事処分を少年に対するその他の処分より不利益な処分と解している根拠とは到底考えられないのである。
4 少年保護手続に不利益変更禁止の原則を適用し、あるいは多数意見のように刑事処分の不利益性を認めると、差戻し審は利益か不利益かの判断に拘束され、当該審判の裁量の範囲を制限されることになって、最適、最善の処遇の選択が不可能になるなど、極めて硬直した運用を強いることとなるのであり、それは、従来の実務の実情や裁判例に抵触し、ひいては、少年法の目的、理念に反する結果を招来することになりかねない。
例えば、刑事処分を選択した場合でも、検察官送致の具体的な処理又は処遇としては、正式起訴か略式起訴か、在宅起訴か勾留起訴か(場合によっては不起訴処分もあり得る。)、有罪か無罪か刑の免除か、不定期自由刑か罰金刑か、実刑か執行猶予かなど、様々な態様の処理又は処遇が考えられ、少年審判実務では、刑事処分における多様な量刑の可能性を前提として、刑事処分を相当と判断して検察官送致がなされているのが実情である。特に、交通事件における罰金刑選択見込みの検察官送致決定が、少年法二〇条による検察官送致件数の九割以上を占めている実情からすると、実務は、刑事処分を保護処分等よりも一般的、類型的に少年にとって不利益な処分とは考えていないものというべきである。
また、少年院送致決定に対し刑事処分を求めて抗告した事件について、抗告の適法性を判断することなく、処遇の最適性、最善性についての実体判断をした多数の高等裁判所裁判例(不適法とする裁判例もあるが少数である。)があり、とりわけ最近、覚せい剤事件についてした中等少年院送致決定に対し、少年側が執行猶予付きの懲役刑を求めて抗告した事例について、抗告審がこれを認容し、原決定を取り消して事件を差し戻したところ、差戻し審が年齢超過を理由に検察官送致決定をし、検察官のした公訴提起に対し、第一審裁判所が執行猶予付き懲役刑を言い渡したが、この抗告審の判断は、少年の自力更生の決意を信用し、収容を避ける処遇を選択する方が、少年の健全育成に資することになるとの判断によっており、成人切迫の事情があるとはいえ、刑事処分の選択が保護処分より不利益な処分であるとの認識はなく、少年に対する最適、最善の処遇の選択を求めた事例ということができる。
ところで、抗告審からの差戻しを受けた家庭裁判所は、裁判所法四条により、抗告審の判断に拘束されるのが原則であるが、抗告審決定時と差戻し審決定時の間に、事情の変化があり、新たな資料に基づいて判断する場合には、抗告審の判断に拘束されることはないと解される。したがって、当該少年について、新たな非行やぐ犯事実が発見されたり、新件を受理するなど、少年の非行性、犯罪性の変化を示す新たな資料が得られた場合のほか、保護環境の変容など要保護性の変化について新しい資料が得られた場合などは、抗告審の判断に拘束されず、差戻し審決定時の最新の事情によって、当該少年に最適、最善の処遇を選択することができ、この場合には、不利益変更禁止原則を適用する余地はないというべきである。けだし、抗告審決定で考慮されなかった事由が新たに発見されたのに、差戻し審決定時の処遇の最適性、最善性を放棄して、抗告審の判断が示唆する処分以外の処分が禁止されることになると、少年保護手続の理念に反することになるばかりか、少年審判規則二五条の二が示す審判併合の趣旨にも反する結果を招来することになるからである。
また、少年保護手続において、抗告審は、抗告に理由ありと判断した場合でも、自判することはできず、事件を差し戻し又は移送しなければならないこととされているが(少年法三三条二項)、これは、差戻し後の家庭裁判所に、その専門性を活用して、最新の判断資料によって最適、最善の処遇を選択することを期待しているものであり、その根底には、不利益変更にとらわれることなく、少年保護手続の理念を全うさせようとする考え方が存するものということができる。
5 以上概観したように、少年保護手続に刑訴法四〇二条が規定する不利益変更禁止の原則を適用することは相当でないというべきであり、これと同様の思想に基づき、刑事処分、そして本件検察官送致決定の不利益処分性を肯認して、これを違法、無効とする多数意見には、同調することができない。
二 本件検察官送致決定の不利益処分性について
少年法二〇条による検察官送致決定は、少年に対する処遇の選択として刑事処分を選択したことを示すにとどまり、言い換えれば、手続上の中間的処分であって、少年に対する実体的処遇には何らの変動をもたらすものではない。しかるに、多数意見は、抗告審が保護処分決定を取り消した上、差戻し審が同条による検察官送致決定をすることは、少年に不利益処分をしたことになるとするが、その理由としては、少年法の趣旨、目的及び構造からくる一般的、類型的不利益性を示すにとどまり、何ら実質的な不利益性を示していない。仮に不利益変更禁止原則の適用を肯定する立場に立つとしても、具体的総合的判断方法により実質的に不利益か否かを決するものとするのが当審判例の示すところであり、単に検察官に送致する手続上の中間的処分にすぎず、前記のとおり、その後に多様な処理または処遇の方法が予定されている刑事手続に移行する効果しかもたない決定に、いかなる意味で実質的な不利益性が肯定されるのか理解し難いところである。したがって、本件検察官送致決定が手続上の中間的処分であり、少年の実体的処遇に変動をもたらすものではないから、これを不利益変更に当たるかどうかの対象としてみることはできないとする原審の判断は、その限度で正当ということができる。
三 本件検察官送致決定の当否について
前記一で述べたように、抗告審からの差戻しを受けた場合であっても、家庭裁判所は、事情の変化が認められる場合は、抗告審決定の示す判断に加え、取消し前の原決定によって執行済みの保護処分の内容等や、新たに得られた証拠資料等を総合的に考慮して、当該少年に対する処遇として最適、最善のものを選択すべきであり、もしその選択に裁判官の裁量の逸脱があると認められる場合には、その決定は違法となるものというべきである。そして、検察官送致決定に対する抗告は少年法の認めるところではないから、もし、本件検察官送致決定が右の総合的判断によって得られる最適、最善の選択に反するものであるとすれば、刑事手続の中でその当否を判断すべきものであり、少年法五五条はそのような場合を想定した規定というべきである。
本件検察官送致決定によれば、新たに捜査機関から送付された約一四六点にのぼる新証拠や、差戻し審が行った一一人の証人調べの結果等から得られた証拠などにより、抗告審決定が判断の根拠とした目撃証人の証言の信用性や、共犯者とされる少年らの自白等の信用性に関する判断を覆す新証拠が得られたことなどの事情から、改めて本件被告人を含む少年らによる本件非行を認定することができ、事件の悪質性、少年らの改悛状況等を考慮すると、この際刑事処分を受けることが少年らの人格、社会性の健全な発達を図る上で必要であるとして刑事処分を選択したというのであるから、刑事処分を選択することとした差戻し審の最適性、最善性の判断は、新証拠の信用性、証明力等に関する差戻し審の判断や、その判断時までの事件経過等を踏まえたものであって、その判断の当否は、刑事手続の終局裁判によって判断されるべきものである。特に、本件は、本件被告人を含む多数の共犯者による集団犯罪とされており、共犯者とされる者も本件被告人と同様の経過を経て刑事手続に付されているのであるから、他の者にも共通する新証拠の信用性、証明力等の判断は、共犯者とされる者と同様に刑事手続の終局判断によってなされるべきものと考える。しかるに、このような具体的な事情の変化を一切考慮することなく、本件被告人に対する処分として、一般的、類型的に不利益な処分である刑事処分に付することのみをもって、本件検察官送致決定を違法、無効と結論付ける多数意見は、到底承服し難いのである。
四 結論
以上の次第で、本件検察官送致決定を違法、無効とする理由はなく、本件公訴提起にも違法はないというべきであるから、本件公訴を棄却した第一審判決を破棄して事件を第一審に差し戻し、他の被告人らと共に本件被告人に対する実体審理を進めるべきものとする原審の判断は、この点において正当であり、私は本件上告を棄却すべきものと考える。
(裁判長裁判官 高橋久子 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄)